8−町と門番
「なかなか立派ね〜。」
と、建物まではまだ距離があるが、白がきれいで大きく作られてあるのが見て取れた。
綺麗に研磨された石造りで、石同士の継ぎ目が見えないように何か塗りこめたのだろう、真っ平らになっていて光沢を放っていた。少し神々しく見えるのは何故だろう、と明は思ったが、その建物の上部に十字架が飾ってあるのが見えて、なるほど、と納得したのだった。
白い建物に寄り添うように、雑然とした並びの民家が大きい範囲に渡って建っている。その外側には、木で出来てはいるが、隙間無くビッシリと組まれていて、とても頑丈な印象を受ける。どうやら一つの集落、というよりも、面積や民家の規模から見て、町とも言えるかもしれない。
しかし、土壌が多く見受けられることから、まだ発展途上である様だった。
「何だか変わった町だな。」
その一言は、異世界からという理由か、異世界である事を踏まえて言っているのか。
「そうでも無いけど、あの白いのは場違いすぎるわね。」
「やっぱりか。」
全ての民家が、木で出来ていて何の塗装もされていない中で、綺麗に出来た石造りはかなりの異彩を放っていた。
「まぁ、どういう事かはあそこに立っている人に聞けばいいわね。」
町をぐるりと囲っている柵の一部に、人が出入りできるように大きく門が作られている。両開きになっていて、今は開放されており、その入り口の左脇に、腰に剣を携えた髭不精の男が立っていた。明らかに門番だと一目で解る。
二人が門に着くと、前々からこちらの姿に気づいていたのか、門番は平静に二人を見ていた。中途半端な髭の割りにはやる気がある様だ。
「見かけない者だな。この町に何か用かい?」
門番は二人に問いかけた。
明は門番の服装を見て、自分の服と、それからルナの服も、文化が違うと思った。それでも、”見かけない”だけで済ませたのは彼なりの礼儀かもしれない。
どうやら、それなりに出来た大人の様だ。
どうする?とルナに横目を向けたが、
「遠いところから二人で旅をしているのだけど、途中で野盗に囲まれちゃって・・・。荷物を渡したら開放してくれたのだけど、このままじゃ旅を続けられないからとりあえず人里を探してたところなの。」
と、彼女はいけしゃぁしゃぁと答える。
門番はその答えに顎を手で擦り、やや考え中という風に口を閉じた。
明はよくそんな嘘を思いついたなと思ったが、嘘の割りにはあながち筋が通っていないわけではない。
服装の違いを、”遠いところから”で説明が出来る。距離が離れていれば文化が違うのも肯けるし、それなのに手ぶらで鞄が何一つ無いのも理解できる。
案外、詐欺師に向いているのかもしれない。
そういえば、僕のランドセルはどうしたのだろうと、少し余計なことを考えていた明だった。
明がそうこう思っている内に、門番は口を開いた
「旅の途中に野盗とは、さぞ大変だったろう。詳しい話は後で長にして貰うという事にして、とりあえずようこそ。ラディンの町へ。」
町の割には施設は全く無いがね、と苦笑しながら、門番は二人を招き入れた。
その警戒心の無さに、少し不思議に思いながらも、門の向こう側へと足を踏み入れたのだった。