MASAHIRORIN’s diary

夜麻傘(MASAHIRORIN)の跡地

6−明とルナの道化

 夢によく見る落ちる夢。
いつか必ず、そう遠く無い内に地面が目の前に来たる。
そして来たる5秒前・・・。
4・・・
3・・・・・
2・・・・・・・・・
1・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「・・・・・・・・・・・・・。」


別に驚く事は無い。
ここに至るまで十分驚く事はあったのだから、今更驚くには少し耐性が付き過ぎたと思う。今までもそれほど動じる事は無かったが。
だから、僅か数センチ目の前に地面があって、地面と自分の距離が縮まらずに頭を下にして宙ぶらりんにいる事も、大した事では無い。


「いや〜危なかったわね。言ってくれなきゃ気づかずにほっといたところだったわ。」
「僕は高いところから落ちて死なない程、人間やめて無いぞ。」
 ルナが明の足を掴んでいる。
ただ掴んでいるのではなく、彼女も同様に浮きながら・・・。
その浮力の原因が"バサッバサッ"と音を立てて、神々しいながらも憎たらしいと明は思った。


ルナの背中に白い羽根がある。


それが何故ついているか、とか、何故今まで出さなかったのか、等、疑問は山積みなのだがとりあえず・・・。
明はこの状況をどうにかして欲しかった。
「ひとまず下ろしてくれ・・・。頭に血が登ってイく・・・・・・。」
「あら・・・。」
ルナが足をしっかり掴んでくれたお陰で地面との衝突は無かったが、しっかり掴んでくれたせいで足の関節が痛かった。雲の上から落ちればどれほどの速度を出せるかわからないが、そんな速度を突然止められたら、速度を出していた本体に衝撃がくるのは必然だった。
生身の足なら、普通であればちぎれているだろう。
そうならずに間接が少し痛む程度なのは、彼女に少しでも気遣う気持ちがあるからだろう。そんな人間らしいところを垣間見て、明は少し安心したのだが、本当はそんな余裕などミジンコ程も無かった。
「ぐっ・・・。」
赤ピーマンから唐辛子に変わっていた。
怒れば頭から煙が噴きそうになるが、煙の代わりに鼻血と耳血が噴出しそうな顔だった。
「はい。」
ルナが明の足を開放する。
効果音をつけるとしたら、"ポイッ"だろうか。
ようやく放された明は、蛙の潰れたような音を出して地面に崩れ落ちた。
「あんまり大丈夫じゃなさそうね。」
「オノレ・・・・・・コノウラミハラサデオクぶぇえええええええ。」
よっぽど頭に来てたらしい。感情がでは無く、血液の方だったが・・・。
それから、あまり時間をかけずにのそのそと明は立ち上がり、少しフラフラする頭を抑えながらここはどこだと言いたげに周りを見渡した。
「ここはどこだ?」
彼の表情と声帯はリンクしているらしい。
「さて、これから調べに行くところだけど?」
どうやらまだ解らないらしい。
落ちている間に聞いた話と違っていたので、少し複雑そうな表情を見せた明だが、今まで彼が住んでいた場所とは明らかに異質だと感じていた。
「こんなに変わった場所なのに解らないのか?」
率直に疑問に出すとそういうことになる。
足元は土で、まるで道の様に遠い彼方まで一本に続いている。と思ったところで、その一本は遠くに白く見える建物に続いている。明は、道だと察した。
そして道からはずれると、草原が広がっていたり、一部には木々が生い茂っていたり、森とも言える濃密な自然が見えたり、高く連なった山々も見えた。
少なくとも、明が住んでいたところにこんな所は無い。


「だって、似たような世界が沢山あるから。」


明はその発言に、眉を顰める他無かった。