MASAHIRORIN’s diary

夜麻傘(MASAHIRORIN)の跡地

3−日々が一転する日

 特に何も無いと言ったら、本当に何も無いと感じる。
日々変わりなく過ごしていく中で変わったことが無いのなら、その通り。
果たして、何が変わった事なのか、と考えると、家を引越したり夜逃げしたり、家族が死んだり、等が思い浮かんだ。
しかしそのどれもが何だか俗っぽく感じ、しかも暗い出来事なのであまり起こって欲しく無かった。


 自分こと神無明は、そんな日々に劇的な変化を望んでいる。
何故かといえば、今がとても平和で楽しくてつらいことも少しあって、バランス良く日常が成り立っているからだろう。
友人はいるので楽しい。家族も、祖母さんが脳みその病気になって亡くなった以外、一人も欠けていない。少し前は虐められて苦しい目にもあった。
その状況は今でも続いている。
平凡だ。
そんな中に何か変わったことが欲しいと思う事は、アフリカや色んな処の難民さん達から見ればかなり罰当たりなのだろうが、そんなのは思う事の抑止力になりはしない。


 まだ8歳の自分故に、他の大人達にそんな事を言ったら笑われるか、怒られるか…。
どう頑張ってもおかしな目に晒される事だろう。
"まだ小学生になって間もない子供が何を言っているの?"等と思われるに違い無い。
しかし…。
生まれ、幼稚園小額中学高等学大学と続いて就職、あるいはヤクザになるだろうか?
生まれの違いで違った選択肢もあるだろう。そんな風に続いていく人生の階段は、万物の人間達に等しくあって、それを上るように生きていく。
そんな階段を、自分は上りたくなんか無い。
人々が普遍的に持っているものなんかに、興味が無かった。


 とあるちょっと田舎の雰囲気な町。略して田舎町。
産まれた時からこの町に住み、小学校中学校高校全てがこの町にあって、きっとこれから18歳になるまで自分はこの町で過ごすことだろう。
そして小学校からの帰り道
最近、漫画じゃない本を少し読み出して覚えた難しい言葉を使って考えることに、ちょっと満足を覚える事に新たな楽しみを見つけ出していた。
「はぁ…。」
 それでもつまらない事に変わりは無く、思わずついた溜息が、その憂鬱に拍車をかけていた。


「・・・ゃ・・・・ぁぁ・・・・・・・・・・・・」
それは遠い処で起きているのだろう。
耳を澄ませば微かなノイズとして聞き取れたかもしれない。
しかしここは学校の帰り道。そんな微かなノイズは周りの自然な音に掻き消されてしまう。
しかも、頭の中は自己満足の為に構想と想像と妄想を繰り広げている。
そんな頭では、周りの自然な音すら知覚する事が出来なかった。


だが、それは間もなく終わる。
時が経つにつれ大きくなってくるノイズは明らかに近づいてきている。明のぐでぐでな頭でもハッキリ聞き取れただろう。
だが、妄想も含めて日常に飲まれている明に、そんな変化をすぐに受け入れられるハズは無かった。
やがて甲高いノイズは、様々な危険を内包しながら明に迫る。



「きゃあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



それは悲鳴だった。



しかも、上から聞こえる。



上を見るとそこに…。



白が見えた、と供に凄まじい衝撃が、自分の顔と後頭部を中心に全身に広がって与えられた。
柔らかい。だが、痛い。そして、前が見えない。
「もー・・・。どうして何時も出口が上空に開くのかしら?
 ネイミーに文句言ってやらなきゃ。」

 どこかの誰かが、自分の上にのっかって文句を言っているが、自分はその上にのっかっているヤツに文句を言いたかった。
体の上からそいつをどかそうと動いたが、指先に至る、まで全身に力が入らない。
そろそろ口と鼻が息苦しくなってきたので、どいてくれないと窒息しそうだ。
「わっ、誰か潰してる!?」
 気づいてくれたらしい。
迷惑をかけている相手に対してその思い方はおかしかったが、今の自分の頭ではそれが限界のようだ。
「・・・大丈夫?」
 問いかけているらしい。
大丈夫なわけないだろうと言い返したかったが、声が出なかった。
体が動かないのでおかしいと思い、状況を知りたかったのだが、体が動かないので今の状態から目線が動くはずはも無い。
そういえば視界のところどころに紅いものが見えるが、それは血のように見える。
どこか出血したようだ。
そんな中に、青空と肌色が見える。
いや、青空と思ったのは髪で、肌色の部分は顔だった。目と鼻と口がついている。
変わった色の髪だなと思いながらも、そういえば頭がクラクラしている。なのに痛みがあまり感じない。
というより、感じなくなってきて…。
ぼやけてきた視界の中で、その顔が何か言っているようだったが、もう何も聞こえない。
やがて、視界はブラックアウトした。



こうして、彼が望んでいた劇的な変化が・・・。
いや、日常が破壊されるのである。