MASAHIRORIN’s diary

夜麻傘(MASAHIRORIN)の跡地

〜御老体センチメンタル−1〜



階段は、廊下の角に沿って中程から左に曲がっていた。
2階に上がると、左側には均等に距離を取った木枠のガラス窓、右側には窓と向かい合うように、同じ数の扉があった。
階段から一番手前の扉と、その一つ向こう側の扉の間に、人が4人程並んで座れるベンチがあり、木枠の窓とは別に、ベンチと同じぐらいの幅がある窓が向かい合って配置されていた。
そのベンチに、ごく普通の―ガイが着ている様な―服を着た、杖を突いて※寄りかかる様に老人が座っている。しかし、老人と言ってもガタイが良く、衣服の上からそこかしこに筋肉が伺える。身長はルナと同じぐらいだ。
 少々凶悪と言って良い体付きをしているが、窓から射す陽の光を浴びて、眉尻を下げた優しい表情を映し、雰囲気は穏やかそのものだった。しかし、どこか物憂げなところも感じられる。そこに水を刺す様に聞こえる訓練の音が、とても疎ましかった。
 明は、その様子を見てどうしたものか、と思ったが、雰囲気に心地良いモノを感じて、じっと見ていた。
「そんな所でじっと立って、何をしているのかな?ボウヤ。」
 老人は、明を見た様子も無かったが、既に気付いていたらしい。
ただものでは無い、と明は思い、老人が何者かとあれこれ考えたが、無粋に感じてすぐに考えるのをやめた。
明は老人の隣に座る。
それでも、老人は身じろぎ一つせず、視線は動かなかった。
「じいちゃんを見てたんだよ。」
 明は老人に※倣い、窓の向こう側を見た。
「ホッ・・・。こんな爺なんぞ見ても、何も面白い事は無いぞ?」
 それは、どこか寂しげな声だった。その一言で、先ほどよりも老人は落ち込んだ雰囲気になった。
だが、そんな事は気にした様子も無く、明は会話が続く事を望んだ。
「面白いかどうかはどうでも良いさ。有意義であるか、意味があればそれで良いよ。」
「ホッ・・・。難しい事を言うねボウヤ。皺だらけの面で生き恥を晒してる爺に意味があると思うかね?」
 やけにネガティヴだな、と明は思ったが、構わずに会話を続ける。
「少なくとも、じいちゃんが考えてる事にはあると思うよ。」
 と、明の好奇心が少々顔を出した。老人が何を考えているのか、カマをかけて聞き出そうとしているのが丸分かりである。そこは、やはり年の功と言った所か、老人は軽く流してしまう。
「ボウヤに話しても、詮無い事だよ・・・。老い先短い爺の悩みなど、先の長いボウヤには何の意味も無いさ。」
 どこか、頑なに拒否しているように聞こえる。余程人には話したく無い事なのだろうが、悩みである事を老人は隠さなかった。何故か、誰かに助けを請う様に聞こえたのは、明の勘違いだろうか?
 ならば、と明は返す。
「僕が見たいのは、じいちゃんに取って意味のある事さ。」