MASAHIRORIN’s diary

夜麻傘(MASAHIRORIN)の跡地

 入って右側の大扉から外を覗いたが、出たところにすぐ大きな橋が架かっていて、その下は堀になっていた。この建物に入って来た時と同じ作りになっている。ただ、こちらから出た道は、先程の活気ある道―中央通りとでも言おうか?―とは直接繋がっておらず、閑散としている。この入口は余り使われていない様だ。明は、特に何も無いと思い踵を返して、今度は聖堂に入ってきた扉から見て向かい側の扉を目指す。聖堂の広さに、体の小さい明には移動だけでも重労働だった。息が乱れてバテている。


扉を潜った所で息を整え、明は回りの様子を見た。
こちらは先程思った通り、廊下が左右に伸びていた。最も、右側はすぐに行き止まりとなって扉が一つあるだけで、埃臭い以外は何の変哲も無い扉だった。 聖堂が派手なのに対してこの扉はやけに質素だったので、その差に明は腑に落ちなかったが、どうせ倉庫か何かだろうと勝手に推測して、すぐに興味を無くした。
今度は反対側を見てみる。
こちらは廊下が長く続いているのを認め、明はそちらの方へ歩き出した。
しばらく歩くと、途中から天井を残して左右の壁が途切れ、吹き抜けになっている。明はそこで足を止め、右側を見た。
吹き抜けの右側には少し小さな花壇があり、花壇の向こう側に柵が設けられていて、地面が途切れている。柵に並行するように堀があった。
どうやら、この廊下は敷地の端に位置する所らしい。花壇は、そんな端に出来た無駄なスペースを埋める為に、無理やり作った様に見えて、明は、寂しいと感じた。
今度は左側を見てみる。
こちらは、硬い土か砂の様な物で地面を硬めており、大きい広場になっていた。例えるならば、学校のグラウンドに近い。そして、またもや大きい作りをしていた。そのグラウンドと密接するように、聖堂とホールとが繋がった壁が見え、2部屋(部屋というには広すぎる)分を超えて尚壁は続いている。グラウンドはその壁が終わるところまで延びていた。
ただ広いだけなら、もう慣れたと明は言いたい所だったが、残念ながらそれだけで終わらないのが人生である。
「おいおい・・・。」
グラウンドには鈍色をした鎧を纏って、大勢の男達が武器を持ち、忙しなく動き回っていたからだ。明は、その様に思わず呆れを抑えきれなかった。
男達は威勢の良い声、というよりは怒声に近いかもしれない。兎に角、大声を上げて武器を打ち合っていた。武器自体に刃は付いておらず、どうやら戦闘訓練をしている様で3〜40人程いる。
これだけの人数で大声を上げて、よく隣の聖堂の中まで聞こえなかったな、と明は思ったが、それ相応に防音出来ているのだろう。聖堂の静謐さと、こちらの荒々しさを隔てようとした意図が伺える。
それにしても、聖堂のすぐ傍でこれは無いだろう、と明は思ったが、”神の為に戦うのだ”、とどこぞの戦犯みたいな事を言うのだろうか?と明は勝手な想像をしていた。
自分は平和主義者だと思い込んでいる明にとって、見ていて余り良い気分では無いので、顔を顰めて視界からはずし、廊下の先に視線を戻した。
廊下はもう少し続くらしい。突き当たりの左側に壁が見えず、まだ廊下が続いている。右側の壁に沿って、階段もあった。
”2階へ行くか、もう少し1階を見て回るか・・・”
と、明は少し・・・本当にほんの少しだけ悩みながら歩き出し、2階へ行こう、と即決したのだった。