MASAHIRORIN’s diary

夜麻傘(MASAHIRORIN)の跡地

 奥の方を向いて右側にある扉。片側だけでルナが両手を水平に伸ばした程の幅があり、しかも両開きである。床面には無駄に出っ張りも無く、平面が扉の先まで続いている。扉は180度開かれていて、壁に扉が固定出来るような金具が見えた。多人数が通りやすく考慮して作られた扉なのだろう、これを作るよう指示した人は、なかなかの人格者と伺える。
 過剰かもしれない観察で、首を忙しなく動かして見ている明だった。


 扉をくぐった先は、礼拝堂になっていた。長椅子が並び、その椅子が向いている方向、入って左側に段差があり、神父が立つ台が据えられている。少し横に視線を移すと、パイプオルガンが置かれていた。
 至って普通だと思った明だが、そんな印象はすぐに崩れる事になる。
「大きいわね・・・。バチカンサン・ピエトロ大聖堂より大きいんじゃないかしら?」
 キリスト系の幼稚園を通っていながら、そんな名称を聞いた事も無かった明だが、そんな無知さも忘れて唖然としてしまっていた。
 奥行きがあって長方形をしているかと思いきや、横幅が奥行きと同じ距離を持っている。しかも、一辺が先程のホールの奥行きと同じだった。その分、長椅子が横方向に複数並んでいて、膨大な人数が座れる様になっている。
 ”これだけの収容人数なら、出入り口が少し狭いんじゃないか?”
 礼拝堂というより、聖堂と言った方が良いかもしれない。そう思った明だが、良く見れば他のところにも、しっかりと扉が据えられていた。
 入って向かい側の壁に、今くぐった扉と同じ作りの物が一つ。開け放たれたその先に壁があり、左右に伸びている。どうやら廊下になっているようだ。
 そして右側、台と向かい合う所に一つ、こちらは今入ってきた扉より大きく、倍以上の面積を誇っている。こちらも開け放たれており、陽光が射している。堀に橋をかけて、外から直接入ってこれるようにしてあった。こちらが正面入り口になっているらしい。今入ってきた扉よりも、人の通りが多かった。
 なるほど、と納得しかけた明だが、正面入り口の両脇に階段があり、其の先に2階席、更にその上に3階席も見つけ、やはり足りないと思うと共に、呆れていた。
 そして、その広さに比例して、段差側の壁上部にあるステンドグラスが大きく、側面に位置する壁の高いところには数多くのガラス窓があった。礼拝堂と玄関口のホールでは壁一枚を挟んで隣り合っているが、ホール側の窓から陽光が入ってきているという事は、更に天井が高くなっている事の証明だった。
「流石にやりすぎじゃないか?」
 と、明は隣のルナに視線を投げかけようとして・・・居なかった。
 呆れて物も言えない、という風に溜息を吐き仕方ないと口に出した。だが、それは一人になった焦りを隠そうとしてるのだと気付き、何やってんだと一人ごちて、余り良い気分では無い明だった。
 それにしても、人の視線が痛い。
 扉を塞ぐ様に立っていたからでもあるが、町の通りを歩いてきた時と同様、視線に珍しい物を見るような雰囲気を感じていたのだった。
 はぁ、ともう一度溜息を吐く。
 溜息は寿命を3年縮めると言うが、それならもう逝けるんじゃないか?と無駄に考えて、また気付いて、また一人ごちて、余り良い気分では無いのだった。
「仕方ないな・・・。」
 そう呟いた明は、ルナを探そうと歩き出した。
 不安を隠せそうには無かった。