MASAHIRORIN’s diary

夜麻傘(MASAHIRORIN)の跡地

5−危ない変化の始まり

 目の前一面に広がる水色は、一点から輝々として照らされ、少し混ざった白との美しいコラボレーションを作り出している。
紙と絵の具があれば描きたい、カメラがあれば納めたいと思った明だが、現実を思い出して溜息を吐いた。


今、凄まじい風圧を受けて落ちている。


「これは一体どういう状況なんだろうね・・・。」


思わず呟いて同時にデジャヴを感じたが、僅か数十分前にも同じことを口にしたのを思い出して、もう気にしなかった。


青だけの色彩がうねうねと広がっていたと重いきや、一度視界が暗くなって突然、一面が明るい青で染まり、体に激しい抵抗と轟音が響いて、凄まじい風を受けている事が解った。
と同時に、高いところから、凄まじい速度で落ちているのだという事も把握した。
故に、ここは空だと明は思った。


いつも空に手を伸ばしてあまりの遠さに諦めていたが、今は手が届く、というより空の中にいるのだから、全身にその水色を感じる事が出来る。
そして太陽も間近にあって、元々明るかった水色を更に輝かせていた。
目が焼けるほど眩しくは無いが、地面に足が付いている時と比べて目を開けるのが辛く感じて、明は手で目を覆う。
そんなすばらしいな、と思う初体験をしていても、やはり明の溜息は止まらない。
日差しも少し肌に痛い。紫外線を間近で受けているせいだろう、まだ2、3分しか落ちていないが肌が赤くなってきている。
我慢できない程ではないが、風圧が背中に痛い。
背を下に落ちているので、ここでくるりと体を回したら顔の穴という穴中に風圧を受けて皮がベロベロになるだろう。
そんなところを思わず想像してしまって、明は何とも微妙な気持ちになった。


「相変わらずいきなりなんだからもー・・・。」
すぐ隣ではルナが一緒に落ちている。空気が耳に触って轟音が頭に響いているが、二人の距離が近いので何をぼやいているかは大体聞こえた。
確かにいきなりだ。
別世界を体験してもらう、とネイミーは言っていたが、それ以前に理由を説明したり行き先を教えたり、順序というものがあるだろう。


そう一度は考えた明だったが、そこはそれ、やはり8歳とは思えないような達観した溜息を吐いて無理矢理納得していた、というよりは諦めていたようだ。
明は、ネイミーの事をめんどくさがりと定義付けた。


「それで、ここはどこなんだ?」
 隣のルナに問いかけた。
「一度地面に立って歩いてみないと分からないわよ。」
 なるほど、ごもっともだった。
なら、地面に着いた後にまた教えて貰おうと思ったが、そこに至る前にもう一つ、聞きたい事があった。
「僕達は今、落ちているわけだけども。」
「ん・・・?」
 何が言いたいのか、という風な顔をしているが、普通に考えて当たり前の事じゃないかと明は思う。それに気づいて無いのならやはり、彼女は普通ではないのだろう。
 なので、あえて言う。


「この高さから落ちたら、僕死ぬんじゃないか?」


「・・・・・・・・・・・・・・・あ。」


 地面はすぐそこまで迫っていた・・・。