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門をくぐると、人が10人程並んで歩ける程度の道がまっすぐに伸びており、そこを少なからず人が往来している。道の両脇には店と思しき屋台がところ狭しと並んでいて、客を寄せる威勢の良い声がそこら中で飛び交い、往来する人はその声を聞いて、立ち止まっては店を覗いていた。
実に賑やかである。
そんな中を、二人は無精髭の男に案内されて進んでいた。
「案外賑やかなのね。皆活き活きとしてるわ。」
ルナが人の往来を見て、その活気を感じていた。
明も、町の外側からは地味に見えていたのに、中に入ってこのギャップでは流石に狐に摘まれた顔だったが、別に悪い事では無いむしろ良い事だ、と、町の中を見回していた。
と、明はふと気付く。
「・・・・・・やっぱり僕等は珍獣みたいだな。」
行き交う人々の中で、すれ違う人が二人をチラ見したり、少し物珍しそうな視線を当てていた。明は当然である、と思っているが、見世物みたいであまり良い気分では無かった。
「諦めなさい。私達の文化が違いすぎるんだから。・・・・・・・・・・それに、今までの町でもそうだったでしょ?」
今まで・・・?と明は思ったが、そういえば髭男には、自分たちは旅人であると言った事を思い出した。
ルナのさり気無い嘘っぷりに少し感動しながら、適当に相槌を打った。
「ふむ・・・。そういえば、二人はどこの国の出身なんだ?」
そんな服は見た来ないぞ、と言って髭男は二人の顔を見た。
ほらきた、と明はルナの顔を見たが、ルナはそれほど苦でも無いといった顔だった。明は、その顔に大丈夫そうだと思って、目線を正面に戻した。
ルナはどう答えようかと言いたげに「うーん」とわざとらしく唸ってそれが2秒足らず。返答を考える為の時間稼ぎだったのだろうが、彼女にとって、返答を考えるのではなくて、言葉を整理していただけに過ぎなかった。
「ここから東の方になるのだけど、国じゃなくて人が寄り集まって生活してる感じ。集落みたいなものよ。最近まではあまり外の人とは交流が無かったから、文化が違うのも仕方ないわね。」
集落以外の人里に初めて行った時は驚いたわ、と信憑性を上塗りするように付け足した。
「・・・・・・・・とんだ詐欺師だな・・・。」
と、明は誰にも聞こえないような声でつぶやいた。しかし、ルナは地獄耳とでも言いたげに耳をピクピクさせている。それを見て、明は心の中で、奇人だ、と付け足した。
そうこう話していると、いつの間にか、少しずつ人の密度が薄くなっている事に明は気付き、そしていつの間にか、町の外からも見られた白い建物が、でんっと聳え立っていた。
「なかなか立派だろう。ここはこの町を統括してる役所みたいなものでな、それと一緒に教会も兼ねているんだ。」
髭男は、建物の屋根の部分を指差して、そこに十字架が飾ってあるのを見せて、それが教会であることを証明した。だが明は、それでこの大きさは異常だろう、と思った。何よりも、そのような所に何故、堀があるのか疑問でしょうがなかった。だが、髭男の口ぶりから見るに、この建物を下手に指摘したり侮辱する事は、タブーであると感じたのだった。
「そんなところへ、どうして私達が?」
と、何故案内されたかをルナは問う。その問いに髭男は、少し困り顔になりながら返答した。
「残念ながら、この町にはまだ宿というものが無くてな。でも旅行者がたまに来るもんで、よっぽどの事情がある時に限りここを仮の宿にしているのさ。特にあんたらは、夜盗に襲われた被害者だからな。その事を言えば、多分野宿なんてハメにはならないだろうさ。ちなみによっぽどの事情が無い人は、行商人の馬車を頼って寝泊りしてるんだそうだ。」
有料で、と付け加えた。
「それじゃ、とりあえず中の人に会わせるからついてきてくれ。」
と言って、髭男はサクサクと中に入った。
ルナもその後をついて歩く。
だが・・・。
明から見れば、堀に囲まれた白くて馬鹿でかい化け物が、頭に十字架つけて大口を開けてさぁ食べられなさいという風で、あまり入りたい場所ではないと明は思った。
そんな明をルナは気にした様子も無く、早くいらっしゃい、と言ってサクサク歩いて行く。
仕方ない、と腹を括って明は歩き出し、同時に、ちょっと嫌な予感もしていたのだった。